クソザコインディーゲーム開発者がパルワールド公式の訴訟問題に関する声明を斬る記事

パルワールドの開発元であるポケットペアが任天堂に提訴されちゃいました。

んで、この記事で問題としたいのが被告側が出したこの声明です。

当社に対する訴訟の提起について

本日、当社に対して特許権の侵害に関する訴訟を提起した旨の発表が、任天堂株式会社及び株式会社ポケモンより行われました。

現時点において、当社は訴状を受領しておらず、先方の主張や侵害したとする特許権の内容等について確認できておりません。これに伴い、パルワールドの運営及び提供においても、中断や変更の予定はございません。 訴状を受領次第、必要な対応を行ってまいります。

当社は東京を拠点とする小規模なインディーゲーム開発会社です。私たちの目標は常に楽しいゲームを作り続けることです。この目標は今後も変わらず、多くのゲーマーの皆様に喜びを提供するために、ゲーム開発を続けます。

今回の訴訟により、ゲーム開発以外の問題に多くの時間を割かざるを得ない可能性がある状況は非常に残念ですが、ファンの皆様のため、そしてインディーゲーム開発者が自由な発想を妨げられ萎縮することがないよう、最善を尽くしてまいります。

プレイヤーの皆様及び関係者の皆様には大変なご心配・ご迷惑をおかけいたしますが、今後も『Palworld / パルワールド』をお楽しみいただくとともに、応援していただけますと幸いです。

https://x.com/Palworld_JP/status/1836692607503843436

この主張に対して、皆さんはどう思われましたか?

もちろんポケモンや任天堂が好きで、パルワールドがパクリっぽいことに対して嫌悪感を抱いている方であれば当然何言ってんだこいつ(AA略)って思うと思いますし、そういう意見は山ほど見ましたが、パクリかどうかで善悪を決めるのは個人的な主観も大きいことも確かです。

ですので今回私(クソザコ弱小インディーゲーム開発者です)はそのようなパクリの是非とかはいったん置いておいて、以下の3点が論理的におかしいと思っているということをお伝えしたく思います。

  • “インディーゲーム開発者が自由な発想を妨げられ委縮する” というのは特許権侵害の疑いをかけられた当事者の主張としては的外れである
  • “訴訟により、ゲーム開発以外の問題に多くの時間を割かざるを得ない” というのは大きなIPを持つに至った企業のスタンスとしては舐めた認識である
  • “小規模なインディーゲーム開発会社である”ことを主張する正当性も必要性もなく、むしろ悪手である

なお背景情報として私の感情的な面について述べておくと、パルワールドはプレイ済みであり、内容的には好きでも嫌いでもありません。パクリっぽい面があることは認めますが、開発側やプレイヤーがリスクを承知で開発・購入するのであれば別にどうでもいいと思っています(まあ、今回そのリスクが実際に顕在化したわけですが)。

また任天堂やポケモンも人並みに好きではありますが、そちらを擁護したいという考えでこの文章を書いているのではありません。ポケットペア(パルワールド側)が言ってることはおかしくないか?ということを言いたいだけです。

目次

おかしな点

1. “インディーゲーム開発者が自由な発想を妨げられ委縮する” というのは特許権侵害の疑いをかけられた当事者の主張としては的外れである

まずゲームというかどんな作品でも、様々な”発想”の寄せ集めで作られているというのは言うまでもないことですし、その”発想”は常にオリジナルのものでなければならないわけではありません。

パルワールドも例外ではなく、オリジナリティのある部分もあれば既存のゲームから着想を得た部分もあるわけです。

そして任天堂が特許権に目を付けたということは、そのような「既存のゲームから着想を得た部分」について自社の特許が侵害されていると判断するに至ったということですよね(どの特許かは現時点で明言されてないので分からないですが)。

つまり任天堂は決してパルワールドのオリジナリティのある部分を否定したいわけではなく、単に模倣されている部分について権利の主張を行っているにすぎないと思われます。ですから「今回の訴訟のせいで自由な発想を妨げられる」と主張するのは的外れです。だってパルワールドの開発陣が自力で考えた部分に文句言われてるわけじゃないんだから。


ただその「模倣」の度合いが人によって解釈が異なるのであればこの主張は分かりますよ?著作権に関する問題ではよくあることですが、たまたま他者の何かに似てしまった、というのであれば本人の非とは一概に言えませんし、それで批判されれば創作に対するモチベーションが委縮するかもしれないというのは分かります。

しかし今回は特許権の侵害ということで提訴されています。特許権であれば著作権などとは異なり、発明がすでに他者の特許を侵害していないのかをあらかじめ調べることが(原理的には)可能なわけです(特許情報プラットフォーム)。例えばプログラムに関する特許であれば、具体的な処理のフローチャートなどを見ることができるので、検証可能性があります。ですからたまたま似てしまった場合でも、確認していなかった方が普通に悪いということになります。

もちろん時間的制約(=金銭的制約)があるので弱小開発者であればそんなこといちいちしていられませんし、だからこそ任天堂をはじめとした大手企業は事実上特許権侵害をしてしまったインディゲームを黙認することもあります。

しかし、果たしてポケットペアはそこに当てはまる企業なのでしょうか?元々(パルワールドの発売前)はそうだったのかもしれませんが、今はそうではないからこそ任天堂も黙認するわけにはいかずに今回の事態になったのではないのでしょうか?後述しますが、企業が成長したのに適切に法務なり知財に投資しないからそうなるんじゃないでしょうか。

2. “訴訟により、ゲーム開発以外の問題に多くの時間を割かざるを得ない” というのは大きなIPを持つに至った企業のスタンスとしては舐めた認識である

ゲーム開発を行う企業は、ゲーム開発にとにかく専念すればそれでいいのでしょうか?私はそうは思わないのですが……。

確かに無名なデベロッパーであれば、法的な問題とはほぼ無縁になるでしょうし、自ずと作品の製作にかける時間の比率は高くなるでしょう。実際、知らずして特許権侵害をしてしまっているインディーゲームもあるでしょうが、それはそれで仕方がないと思います。

しかしパルワールドは異例中の異例の大ヒットを記録したわけで、少なくとも600億円以上の売上を記録している(参考)時点でどう考えても立派な企業であり、そのような企業は自社の利益を守るために、法務部門を設置するなり顧問弁護士を雇うなりするのは当然必要になる投資じゃないんですかね?

まあポケットペアが実際にはそのような投資をどれだけしているのかは私にはわかりませんが、少なくとも今回の声明からは

「訴訟のせいでゲーム開発の時間が無くなっちゃうよー><」

としか読み取れないです。雇えよ。人を。足りないならもっと。

もし今このような状況になって急に手が回らないというのであれば、対応が遅いだけです。素人でもパルワールドには権利的なリスクがあることは分かりますし、実際にその点を批判するメッセージは嫌というほど受け取っているはずなので、これが不測の事態であるわけがありません。

リスクがあるゲームを売るなというそもそも論はあまり好きじゃないので置いておくとしても、実際に売れてしまった時点で、このような事態を見越して早期に法的な問題への投資を行うべきだったのではないでしょうか。それをしなかったのは企業運営的に怠慢だったということです。

3. “小規模なインディーゲーム開発会社である”ことを主張する正当性も必要性もなく、むしろ悪手である

声明を読む限りは、

「小規模なインディーゲーム会社で頑張ってるのにいじめやがって!」

と言っているように読み取れるのですが。

私が前述したことから読み取って頂けると思うのですが、そもそも莫大な売上を達成しておいて何故小規模であり続ける必要があるのか、という話ですよ。

私も一応個人のゲーム開発者であり、開発が小規模であることの強みは分かります(独裁政治に例えればわかりやすいと思います。是非はともかく、あらゆる決定が素早いですし方針のブレが少なくなります)。

ですが開発以外のリソースはそういった話とは無関係です。自社の財産を守りたいのであれば相応の投資をするべきです。法務にも知財にもスペシャリストを置けばいいですし、そういった部門(あるいは外部機関かもしれませんが)との連携をあらかじめ確立しておけば今回のような事態で慌てることもありません。さっきと同じこと書いてますが。

要するに「小規模なインディーゲーム会社」であり続けているのは、あなた方の勝手では?ということです。利益を再投資して企業を成長させる必要性があったのに、していないから小規模なのではないんですか。(3つの観点から書いてて結局この結論に至るのは面白いな)

にもかかわらず楽しいゲームを作るために邪魔な悪者と戦いますみたいな声明を出しているから、説得力を感じないのです。そもそも今回の話はただ特許侵害の疑いに対して真摯に対応すればそれで済む話であって、まだ悪者が誰なのかなんて決まっていませんし、ゲームに対する理念を語られても意味がありません。

【以降の段落は個人的意見が強いです】

あと別にポケットペアがインディーゲームの代表面すること自体は勝手なので(そもそもインディーゲームの定義自体曖昧ですし)いいのですが、その名前を借りて的外れな声明を出したら、とばっちりを受けるのはインディーゲーム業界です。インディーゲーム業界がそういう特許権侵害の訴訟を受けたら相手を悪者扱いするような知的財産を尊重しない集団だと思われたらどうするんですか。

というようなことを思う人もいるので(実際に上記ポストへのリプライを見れば同様の意見が複数見られます)反感を買ってしまうんじゃないかなと思います。反感を買うような文章を掲載してしまうのは、是非はともかくとして悪手だったでしょう。

まとめ

私は声明全体を読んでどうしても違和感が払拭できなかったので今回言語化してみましたが、そもそも主張自体が的外れであるし、それだけでなくその意見を述べるためのスタンスも誤っているのでは?と改めて思いました。

楽しいゲームをプレイヤーに届けたいという気持ちはよくわかりますが、そのために必要なのは開発や運営に対する投資だけではないということを理解してもらいたいです。ユーザーを楽しませるにはまず安心させることが必要不可欠なのではないでしょうか。

いつ公開差し止めになるかもしれないゲームを続けてプレイするのは不安なものですし、そのような状況から守るための投資も楽しいゲームをプレイヤーに届けるために必須です。ポケットペアはそれができる状況にあるはずなのにしないで、あろうことかこういう被害者面した声明を出すとなれば失望させられます。

インディーゲーム業界を盛り上げたいと考えているのであれば、作品がヒットした場合の正しい企業戦略を我々に見せてくださいよ。私も成功したら参考にするんで。

ということでクソザコインディーゲーム開発者がお伝えしました。

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この記事を書いた人

フリー音楽ゲーム DuNo の開発者です。

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